延びてしまった寿命は仕方がない。かなり古いデータで恐縮であるが、英国の医学雑誌に「性的活動が盛んだと男性の寿命が延びる」という論文が発表された（１９９７年）。 　４５～５９歳の９１８名の男性を対象に性的興奮（これが何を意味するのかは定かではない）の頻度と全死亡率との関係を調べている。その結果、１０年後には性的興奮の多い男性（週２回以上）は性的興奮の少ない男性よりも死亡率が低く、心筋梗塞などの心臓病にもなりにくいという結果がでた。 　この論文からすると肉体的なセックスに至らなくとも、常に性的刺激、いわゆる“色気”を持ち続けた方がよさそうである。残念ながら女性のデータは少ないが、何歳になってもおしゃれに気を使っている人のほうが元気そうだ。男性も異性を意識して、髪を染めたり、おしゃれに気を遣うのも長寿の秘訣（ひけつ）かもしれない。 　この論文に関しては、４５～５９歳で異性に関心のない人は病気がちで元気がなく、その結果、寿命が短かっただけだろうとの指摘もある。どちらにしても異性に関心を持ち続けることが元気のバロメーターだろう。 　しかし、セックスで心臓麻痺になるのではないかとの心配される高齢男性も少なくはない。いわゆる“腹上死”の心配だ。ある意味“腹上死”は男性の理想的な死に方かもしれないが、その後の修羅場を考えると安心して冥途に行きにくいだろう。

元東京都監察医務院の上野正彦先生のデータによると腹上死は、突然死５５５９例中３４例（約０．６％）と極めてまれである。しかし、その中でも注目されるのが、お相手と場所である。腹上死のうち、妻以外と自宅以外での性行為が６０％以上を占めていたことから、あまりに刺激が強いと心筋梗塞や脳卒中の危険が高まる可能性がある。 　理想は長年連れ添った相手と興奮度の少ない性的刺激を持続することだろうが、これはなかなか難しい。会話もない妻に夫がいきなりスキンシップを求めても嫌がられるだけである。前回も指摘したように、上から目線の態度を改めて、夫婦の会話から始めてはどうだろう。

【プロフィル】石蔵文信（いしくら・ふみのぶ）　昭和３０（１９５５）年、京都市出身。内科、循環器科専門医。大阪樟蔭女子大健康栄養学部教授。三重大医学部卒業後、国立循環器病センター、大阪警察病院などに勤務。米メイヨークリニックへの留学後、大阪大学大学院医学系研究科准教授を経て現職。平成１３（２００１）年より大阪市内で「男性更年期外来」を開設し、中高年の心と体の専門家として丁寧なカウンセリングと治療に定評がある。昨年１２月に「親を殺したくなったら読む本」など著書多数。

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